この記事では、SciPyを活用した数値積分の方法について解説します。基本的な一変数積分から始めて、広義積分、重積分、フレネル積分といった応用的な積分についても豊富なサンプルコードを掲載しています。記事後半ではSymPyによるシンボリック積分についても解説します。
【SciPy】数値積分ライブラリ
SciPyの積分パッケージ scipy.integrate.quad() は Fortran のライブラリ QUADPACK を使って、数値積分を実行します。必須引数は被積分関数 func、積分下限値 a、積分上限値 b です。戻り値は積分近似値と推定誤差のタプルです。
例として、$y=\sin^2 x$ を $0$ から $\pi$ まで積分してみます (積分の真値は $\pi/2$)。
# PYTHON_INTEGRATE_01 # In[1] # NumPyをインポート import numpy as np # SciPy積分パッケージをインポート from scipy import integrate # 関数を定義 y = lambda x: np.sin(x)**2 # yを0からpiまで数値積分 integ = integrate.quad(y, 0, np.pi) print(integ) # (1.5707963267948966, 1.743934249004316e-14)
下限 a または上限 b に $\infty$ を指定することもできます。たとえば、$\displaystyle\int_0^{\infty}e^{-x}dx$ を実行する場合は以下のように記述します (真値は $1$)。
# In[2] # 関数を定義 y = lambda x: np.exp(-x) # yを0から∞まで積分して積分値と推定誤差を求める val, err = integrate.quad(y, 0, np.inf) print(val) print(err) # 1.0000000000000002 # 5.842607038578007e-11
関数が積分変数以外のパラメータを含む場合は、args でパラメータの値を設定できます。たとえば、
\[\int_{0}^{1}\frac{dx}{x^2+a^2}\quad (a=2)\]
を計算する場合は以下のように記述します。
# In[3] # 関数を定義 y = lambda x, a: 1/(x**2 + a**2) # a=2として、yを0から1まで積分 val, err = integrate.quad(y, 0, 1, args=2) print(val) print(err) # 0.23182380450040307 # 2.5737612541254846e-15
次は分数関数 $f(x)=1/x$ の区間 $[-1,1]$ における積分
\[\int_{-1}^{1}\frac{1}{x}dx\]
を求めてみましょう。$x=0$ で $f(x)$ が特異点となるので、通常の積分は値をもちませんが、特異点を除いた積分 (コーシーの主値積分)
\[\lim_{\varepsilon\rightarrow +0}\left\{\int_{a}^{c-\varepsilon}f(x)dx+\int_{c+\varepsilon}^{b}f(x)dx\right\}\]
を計算することは可能です ($1/x$ は原点に関して対称なので積分の真値は $0$ です)。
方法の1つは integrate.quad() の オプション引数 weight に “cauchy” を渡すことです。weight は被積分関数 func に乗じる重みを表す引数です。weight=”cauchy” は 1/(x-c) を掛けることを意味し、分母の定数 c は wvar で指定します。
# PYTHON_INTEGRATE_02 # In[1] from scipy import integrate # 関数を定義 y = lambda x : 1 # 1/xのコーシー主値積分 val, err = integrate.quad(y, -1, 1, weight="cauchy", wvar=0) print(val) # 2.220446049250313e-16
もう1つの方法は points に特異点を渡すことです。
# In[2] # 関数を定義 y = lambda x : 1/x # 1/xのコーシー主値積分 val, err = integrate.quad(y, -1, 1, points=0) print(val) # 0.0
points には複数の値を渡せるので、積分範囲が複数の特異点を含む場合は、特異点のリストを渡してください。
重積分
scipy.integrate.dblquad() は、二変数関数を受け取って二重積分 (double integral) を実行します。たとえば、領域 $0\leq x,\ y\leq 1$ における $f(x,y)=x^2y$ の積分
\[\int_{0}^{1}\int_{0}^{1}x^2ydxdy\]
を計算する場合は以下のコードを実行します (真値は $1/6$)。
# DOUBLE_INTEGRAL # In[1] # SciPy積分パッケージをインポート from scipy import integrate # 関数を定義 f = lambda y, x: (x**2)*y # fを0からpiまで数値積分 val, err = integrate.dblquad(f, 0, 1, 0, 1) print(val) print(err) # 0.16666666666666669 # 5.527033708952211e-15
scipy.integrate.tplquad() に三変数関数を与えると、三重積分 (triple integral) を計算できます。たとえば、$f(x,y,z)=x+y+z$ の空間領域 $0\leq x,\ y,\ z \leq 1$ における積分
\[\int_{0}^{1}\int_{0}^{1}\int_{0}^{1}(x+y+z)dxdydz\]
を計算する場合は次のようなコードを書きます。
# In[2] # 関数を定義 f = lambda z, y, x: x + y + z # fを三重積分 val, err = integrate.tplquad(f, 0, 1, 0, 1, 0, 1) print(val) print(err) # 1.5 # 2.7707360439619496e-14
台形公式
scipy.integrate.trapz() は 台形公式 (trapezoidal rule) を使って積分の近似値を求めます。
scipy.integrate.trapz(y, x=None, dx=1.0, axis=-1)
台形公式は、下図のように積分区間を等分割し、複数の台形を寄せ集めて積分を近似します。
簡単な連続関数であれば、台形公式で十分な精度の値が得られることが知られています。また、単純なアルゴリズムで処理するので、scipy.integrate.quad() に比べて計算時間が短くて済むという利点もあります。
一例として、二次関数 $y=x^2$ を $0$ から $1$ まで積分してみます。
# INTEGRATE_TRAPEZOIDAL # In[1] import numpy as np # 積分ライブラリをインポート from scipy import integrate # 区間[0,1]を64分割 x = np.linspace(0, 1, 65) # xの各要素に対するyを計算 y = x**2 # 台形公式を使ってyを0から1まで積分 s = integrate.trapz(y, x) print(s) # 0.3333740234375
区間を $64$ 分割して計算させています。真値は $1/3=0.33333…$ なので若干の誤差がありますが、x の刻み幅を小さくすることで精度を向上させることができます。
シンプソンの公式
scipy.integrate.simps() は シンプソンの公式 (Simpson’s rule) にしたがって数値積分を実行します。
scipy.integrate.simps(y, x=None, dx=1, axis=-1, even='avg')
シンプソンの公式は曲線を 3 点を通る放物線の集合によって近似します。
以下のコードでは $y=\sqrt{x}$ を $0$ から $1$ まで積分します。
# INTEGRATE_SIMPSON # In[1] # NumPyをインポート import numpy as np # 積分パッケージをインポート from scipy import integrate # 区間[0,1]を128分割 x = np.linspace(0, 1, 129) # xの各要素に対するyを計算 y = np.sqrt(x) # シンプソンの公式を使ってyを0から1まで積分 s = integrate.simps(y, x) print(s) # 0.6666106059362655
フレネル積分
フレネル正弦積分とフレネル余弦積分は
\[\mathrm{S}\,(x)=\int_{0}^{x}\sin\left(\frac{\pi}{2}t^2\right)dt,\quad\mathrm{C}\,(x)=\int_{0}^{x}\cos\left(\frac{\pi}{2}t^2\right)dt\]
によって定義され、まとめてフレネル積分とよばれます。フレネル積分は初等関数で表すことができません(級数展開で表記することは可能です)。scipy.special.fresnel(z) は z におけるフレネル正弦積分とフレネル余弦積分の値を返します。以下のコードを実行するとフレネル積分の概形を描きます。
# FRESNEL_INTEGRAL # In[1] import numpy as np from scipy.special import fresnel import matplotlib.pyplot as plt # 区間[-4,4]を128分割 x = np.linspace(-4, 4, 129) # フレネル正弦積分 fs = fresnel(x)[0] # フレネル余弦積分 fc = fresnel(x)[1] # FigureとAxes fig = plt.figure(figsize=(6.5, 5)) ax = fig.add_subplot(111) ax.grid() ax.set_xlabel("x", fontsize=15) ax.set_ylabel("S(x), C(x)", fontsize=15) ax.set_xlim(-4, 4) ax.set_ylim(-1, 1) # Axesにグラフをプロット ax.plot(x, fs, color = "blue", label="S (x)") ax.plot(x, fc, color = "red", label="C (x)") # 凡例を表示 ax.legend(loc="upper left") plt.show()
指数積分
scipy.special.expi(x) は指数積分
\[\mathrm{Ei}(x)=\int_{-\infty}^{x}\frac{e^{-t}}{t}dt\]
の値を返します。以下のコードを実行すると、実変数の $\mathrm{Ei}(x)$ のグラフの概形を描きます。
# EI_INTEGRAL # In[1] import numpy as np from scipy.special import expi import matplotlib.pyplot as plt # 区間[-4,4]を1024分割 x = np.linspace(-4, 4, 1025) # 指数積分Ei(x) ei = expi(x) # FigureとAxes fig = plt.figure(figsize=(6.5, 5)) ax = fig.add_subplot(111) ax.grid() ax.set_xlabel("x", fontsize=15) ax.set_ylabel("Ei(x)", fontsize=15) ax.set_xlim(-4, 4) ax.set_ylim(-4, 8) # 指数積分をプロット ax.plot(x, ei, color = "blue", label="Ei(x)") # 凡例を表示 ax.legend(loc="upper left") plt.show()
scipy.special.expn(x) は $n$ 次の指数積分
\[\int_{1}^{\infty}\frac{e^{-xt}}{t^n}dt\]
の値を返します。
# In[2] from scipy.special import expn # 区間[0,2]を128分割 x = np.linspace(0, 2, 129) # FigureとAxes fig = plt.figure(figsize=(6.5, 5)) ax = fig.add_subplot(111) ax.grid() ax.set_xlabel("x", fontsize=15) ax.set_ylabel("En(x)", fontsize=15) ax.set_xlim(0, 2) ax.set_ylim(0, 10) # 指数積分をプロット for n in range(3): ax.plot(x, expn(n, x), label = "n={}".format(n)) # 凡例を表示 ax.legend(loc="upper right") plt.show()
scipy.special.exp1(x,n) は指数積分
\[\int_{1}^{\infty}\frac{e^{-xt}}{t}dt\]
の値を返します。scipy.special.expn(x,n) で n = 1 を指定した場合の戻り値と同じです。
ドーソン積分
scipy.special.dawsn(x) はドーソン積分 (Dawson integral)
\[D_+(x)=\exp(-x^2)\int_0^x\exp(t^2)dt\]
を計算します。
# DAWSON_INTEGRAL # In[1] import numpy as np from scipy.special import dawsn import matplotlib.pyplot as plt # 区間[-10,10]を512分割 x = np.linspace(-10, 10, 513) # 正弦積分 ds = dawsn(x) # FigureとAxes fig = plt.figure(figsize=(6.5, 5)) ax = fig.add_subplot(111) ax.grid() ax.set_title("Dawson integral", fontsize=16) ax.set_xlabel("x", fontsize=15) ax.set_ylabel("D(x)", fontsize=15) ax.set_xlim(-10, 10) ax.set_ylim(-0.6, 0.6) # グラフをプロット ax.plot(x, ds, color = "blue") plt.show()
【SymPy】不定積分と定積分
SymPy では次の構文で関数 func の変数 var による不定積分を求めることができます。
integrate(func, var)
定積分を計算する場合は次のように記述します。
integrate(func, (var, 下限, 上限))
例として、対数関数 $\log x$ の不定積分公式
\[\int \log{x}dx = x\log x-x+C\]
を確認してみましょう。
# SYMPY_INTEGRATE # In[1] import sympy # 数式をLaTeXで表示 sympy.init_printing() # 記号a, b, xを定義 sympy.var('a b x') # f(x) = log(x) fx = sympy.log(x) # 対数関数の不定積分 integ = sympy.integrate(fx, x) display(integ)
sympy.integrate() の上限と下限を指定すると定積分を計算します。$\log x$ の $x=1$ から $x=2$ までの定積分を求めてみましょう。
# In[2] # logxを1から2まで定積分 integ = sympy.integrate(fx, (x, 1, 2)) display(integ)
そのままでは、$\log(2)$ などは計算しないので、値がほしいときには evalf() メソッドで評価値を得てください。
# In[3] # 定積分の評価値を取得 val = integ.evalf(5) print(val) # 0.38629
上限もしくは下限に無限量を指定したいときには、sympy.oo を使います。たとえば、
\[\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{1+x^2}dx\]
を計算する場合は以下のようなコードを書きます。
# In[4] # 1/(1+x**2)を-∞から+∞まで定積分 integ = sympy.integrate(1/(1+x**2), (x, -sympy.oo, sympy.oo)) display(integ)
sympy.integrate() を使うと、手計算では扱いにくいような複雑な積分を簡単に実行できます。一例として、$\tan^3 x$ を積分してみましょう。
# In[5] # tanxの3乗の不定積分 integ = sympy.integrate(sympy.tan(x)**3) integ = sympy.simplify(integ) display(integ)
コメント
下記は誤植と思われますので、ご確認ください。
DOUBLE_INTEGRAL In[1] プログラムのコメントで、# yを0からpiまで → fを0から1まで
DOUBLE_INTEGRAL In[1] と In[2] で、積分範囲をlambda関数で指定していますが、そのまま 0 と 1 を書いても同じ結果が得られました。
EI_INTEGRAL In[2] プログラムの下の文で、scipy.special.exp1(x, n) → scipy.special.exp1(x)
SYMPY_INTEGRAL In[1] プログラムの上の文で、∫ log x → ∫ log x dx
SYMPY_INTEGRAL In[3] プログラムの下の文で、∫1/(1+x^2) → ∫ 1/(1+x^2) dx
SYMPY_INTEGRAL In[5] プログラムの実行結果が、log(cos(x)) + (1/(2cos^2(x)) となりました。
ありがとうございます。
全部修正しておきました。m(_ _)m