1859年にドイツの数学者ベルンハルト・リーマン(Bernhard Riemann)によって提唱されたリーマン予想は現代 (2019年5月8日時点) でも解決に至っていない、数学の難問中の難問です。リーマン予想の意味を理解するためには、まずリーマンゼータ関数について理解する必要があります。この記事では、Python でリーマンゼータ関数を実装して「リーマン予想とは何か?」を解説します。
リーマンゼータ関数
解析的整数論において重要な位置を占めるリーマンゼータ関数(Riemann zeta function)は
\[\zeta(s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s}\quad (\mathrm{Re}(s)\gt 1)\tag{1}\]
によって定義されます。Scipy にはリーマンゼータ関数を計算する scipy.special.zeta() が用意されていますが、定義 (1) の $s$ に相当する引数に正の実数しか渡せないので、応用範囲が限定的です。
この記事では mpmath に組み込まれている mpmath.zeta() を使うことにします。mpmath は Scipy や Sympy のバックグラウンドではたらく任意精度演算パッケージです。mpmath.zeta() は解析接続によって $s=1$ をのぞく複素数全域で定義されたゼータ関数を計算できます。
mpmath.zeta(s, a=1, derivative=0)
a=1 を指定すると(デフォルトで 1 になっています)、リーマンのゼータ関数を計算します。
ゼータ関数は $0$ を除く偶数点 $s=2n$ で収束します。
\[\begin{align*}&\zeta(2)=-\frac{\pi^2}{2}=1.6449\\[6pt]&\zeta(4)=-\frac{\pi^2}{90}=1.0823\\[6pt]&\zeta(6)=-\frac{\pi^2}{945}=1.0173\end{align*}\]
mpmath.zeta() を使って確認してみましょう。
# PYTHON_RIEMANN_ZETA # In[1] # s=2nにおけるゼータ関数の値 import mpmath mpmath.mp.dps = 25 mpmath.mp.pretty = True # ζ(2),ζ(4),ζ(6) z2 = mpmath.zeta(2, 1) z4 = mpmath.zeta(4, 1) z6 = mpmath.zeta(6, 1) # 計算結果を小数点以下8桁まで表示 print("ζ(2): {}".format(z2)) print("ζ(4): {}".format(z4)) print("ζ(6): {}".format(z6)) # ζ(2): 1.644934066848226436472415 # ζ(4): 1.082323233711138191516004 # ζ(6): 1.017343061984449139714518
$s=1$ はリーマンゼータ関数の極なので、mpmath.zeta(1, 1) はエラーを返します。$s=2n+1$ における値も計算しておきます。
# In[2] # s=2n+1におけるゼータ関数の値 # ζ(3),ζ(5),ζ(7) z3 = mpmath.zeta(3, 1) z5 = mpmath.zeta(5, 1) z7 = mpmath.zeta(7, 1) # 計算結果を小数点以下8桁まで表示 print("ζ(3): {}".format(z3)) print("ζ(5): {}".format(z5)) print("ζ(7): {}".format(z7)) # ζ(3): 1.202056903159594285399738 # ζ(5): 1.036927755143369926331365 # ζ(7): 1.008349277381922826839798
リーマン予想
リーマンゼータ関数の $s=-2n\ (n\gt 0)$ は自明な零点とよばれます。
mpmath.zeta() に零点での値を計算させてみましょう。
# In[3] # 自明な零点の計算 # ζ(-2),ζ(-4),ζ(-6) zm2 = mpmath.zeta(-2) zm4 = mpmath.zeta(-4) zm6 = mpmath.zeta(-6) print("ζ(-2): {}".format(zm2)) print("ζ(-4): {}".format(zm4)) print("ζ(-6): {}".format(zm6)) # ζ(-2): 0.0 # ζ(-4): 0.0 # ζ(-6): 0.0
ちなみに、自明な零点以外の零点を非自明な零点とよびますが、
「非自明な零点はすべて $s=1/2+ti$ の上にあるよ」
というのが、かの有名な リーマン予想 です ($i$ は虚部、$t$ は任意の実数パラメータ) 。直線 $s=1/2+ti$ のことをクリティカル・ライン (critical line) といいます。
非自明な零点がどのあたりにあるのか、Matplotlib でグラフを描いて調べてみましょう。横軸にはクリティカル・ライン、縦軸にはリーマンゼータ関数の絶対値 $|\zeta(s)|$ をとります。
# In[4] # 非自明な零点の探索 import matplotlib.pyplot as plt x = [] absz = [] t = range(0, 5000) for q in t: s = 0.5 + 0.01 * t[q] * 1j x.append(0.01 * t[q]) absz.append(abs(mpmath.zeta(s))) # リーマンゼータ関数のグラフを描画 fig = plt.figure(figsize = (6, 6)) ax = fig.add_subplot(111) ax.set_title("Absolute value of Riemann zeta Function", size = 14) ax.grid() ax.set_xlim(0, 40) ax.set_ylim(-1, 4) ax.set_xlabel("Critical Line", size = 14, labelpad = 10) ax.set_ylabel("|ζ(s)|", size = 14, labelpad = 10) ax.plot(x, absz, color = "darkblue")
クリティカル・ライン上で $|\zeta(s)|$ が $0$ になっている点が非自明な零点です。詳しい計算によると、原点に最も近い非自明な零点は $s=1/2\pm (14.13…)i$ であることが知られています。
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