ニュートンの運動方程式と運動量保存則

ニュートンの運動方程式と運動量保存則

ニュートンの運動方程式

 第二法則に登場する ニュートンの運動方程式
 
\[\frac{d \boldsymbol{p}}{dt}=\boldsymbol{F}\tag{1}\]
は古典力学の根幹ともいうべき微分方程式です。この式から運動量保存則やエネルギー保存則などの重要な法則がすべて導かれます。

 (1) は物体に作用する力 $\boldsymbol{F}$ を運動量 $\boldsymbol{p}$ の時間変化によって定義する式です。$\boldsymbol{p}$ は質点の質量と速度ベクトルの積 $m\boldsymbol{v}$ なので、
 
\[\frac{d}{dt}(m\boldsymbol{v})=\boldsymbol{F}\tag{2}\]
のように書き表すこともできます。ロケットの発射など、特殊な状況では質量が変化することもありますが、ほとんどの状況において質量は一定なので、$m$ を外に出して
 
\[m\frac{d \boldsymbol{v}}{dt}=\boldsymbol{F}\tag{3}\]
と表せます。すなわち、質量 $m$ の物体に加速度 $\boldsymbol{a}=d\boldsymbol{v}/dt$ が生じたとき、両者の積 $m\boldsymbol{a}$ を物体に作用した 力 (force) であると定義します。定義によって、力の単位は [kg・m/s2] となりますが、これをニュートンと定義して [N] で表します。

 たとえば、摩擦のない床に静止している質量 $10$ kg の物体を横から押して、$1$ 秒間で時速 $3.6$ km/h まで加速させたとします。$3.6$ km/h を秒速換算すると $3.6/3.6=1$ m/s なので、物体には $10\times 1=10$ N の力が作用したことになります。作用・反作用の法則により、押した人も同じだけの力を受けます。
 

運動量と力積

 運動方程式 (1) を
 
\[d\boldsymbol{p}=\boldsymbol{F}dt\tag{4}\]
のように書き直して、$t_0$ から $t_1$ まで積分すると
 
\[\boldsymbol{p}(t_1)-\boldsymbol{p}(t_0)
=\int_{t_0}^{t_1}\boldsymbol{F}dt\tag{5}\]
となります。(5) は積分で表された運動方程式です。右辺は 力積 とよばれる量で、力 [N] × 時間 [s] の次元をもちます。$\boldsymbol{F}$ が時間によらない定数ベクトルであるならば、(5) は
 
\[\boldsymbol{p}(t_1)-\boldsymbol{p}(t_0)
=\boldsymbol{F}(t_1-t_0)\tag{6}\]
と表せます。$\Delta t=t_1-t_0$ とおくと、
 
\[\boldsymbol{p}(t_1)-\boldsymbol{p}(t_0)
=\boldsymbol{F}\Delta t\tag{7}\]
 つまり下図にあるように、運動量ベクトルの差分が力積ベクトル $\boldsymbol{F}\Delta t$ となっています。

質点に力積を加えると運動量の向きと大きさが変化する

 一般に質量 $m$ は一定なので、力積は速度ベクトルの大きさや向きを変えます。
 

運動量保存の法則

 質点に力が作用しないとき、すなわちニュートンの運動方程式の右辺が $0$ であるとき、
 
\[\frac{d \boldsymbol{p}}{dt}=0\tag{8}\]
を積分して、$\boldsymbol{p}=C$ ($C$ は定数) となり、運動量は変化しません。これが最も単純な ($1$ 粒子系の) 運動量保存の法則 です。質量 $m$ が一定であれば、$m\boldsymbol{v}=C$ なので、質点に力がはたらかなければ速度ベクトル (速度の向きや大きさ) が一切変化しないことを意味する法則です。

 身の回りで観察される運動中の物体は放っておけば必ず停止するので、直感的にわかりにくいかもしれませんが、それは空気抵抗や摩擦によってエネルギーが奪われているからであり、恒星や惑星の重力などの影響から遠く離れた宇宙空間を孤独に漂う小惑星は (それでも宇宙線などの影響を受けるので完全ではありませんが)、ほぼ一定の速度で運動を続けます。

 $3$ 粒子系を考えましょう。完全に孤立した世界 (孤立系) に $3$ 種類の質点 A, B, C を置きます。それぞれの運動量を $\boldsymbol{p}_A,\ \boldsymbol{p}_B,\ \boldsymbol{p}_C$ とします。それぞれの質点は他の $2$ 個の質点から万有引力によって引きつけられ、またその反作用として他の $2$ 個の質点を自身の方に引きつけます。

Python 3粒子系の運動量保存則

 それぞれの質点の運動方程式を書き並べると
 
\[\begin{align*}
\frac{d\boldsymbol{p}_A}{dt}
&=\boldsymbol{F}_{A\to B}+\boldsymbol{F}_{A\to C}\tag{9}\\[6pt]
\frac{d\boldsymbol{p}_B}{dt}
&=\boldsymbol{F}_{B\to A}+\boldsymbol{F}_{B\to C}\tag{10}\\[6pt]
\frac{d\boldsymbol{p}_C}{dt}
&=\boldsymbol{F}_{C\to A}+\boldsymbol{F}_{C\to B}\tag{11}
\end{align*}\]
となります。これらの式をすべて足し合わせてみます。
 
\[\frac{d}{dt}
(\boldsymbol{p}_A+\boldsymbol{p}_B+\boldsymbol{p}_C)
=\boldsymbol{F}_{A\to B}+\boldsymbol{F}_{A\to C}
+\boldsymbol{F}_{B\to A}+\boldsymbol{F}_{B\to C}
+\boldsymbol{F}_{C\to A}+\boldsymbol{F}_{C\to B}\tag{12}\]
 ここで、$\boldsymbol{F}_{A\to B}$ と $\boldsymbol{F}_{B\to A}$、$\boldsymbol{F}_{A\to C}$ と $\boldsymbol{F}_{C\to A}$、$\boldsymbol{F}_{C\to B}$ と $\boldsymbol{F}_{B\to C}$ は作用・反作用の関係にあるので (上図)、互いにキャンセルしあって $0$ になります。すなわち方程式 (12) の右辺は $0$ となります。
 
\[\frac{d}{dt}
(\boldsymbol{p}_A+\boldsymbol{p}_B+\boldsymbol{p}_C)
=0\tag{13}\]
 この式は互いに作用・反作用の力のみ及ぼし合う状態で、系の外から力を受けない限り、運動量の総和が保存されることを意味しています。もちろん、質点が $N$ 個の場合でも成り立ちます ($N$ は任意の自然数)。これが $N$ 粒子系の 運動量保存の法則 です。

 ここで、下図のように質点 $A,\ B$ と質点 $C$ を分離してみます。

運動量保存則が成り立たない例

 すなわち質点 $A,\ B$ から成る $2$ 粒子系を考えて、質点 $C$ から受ける力を外力 (系の外からの力) とします。質点 $A,\ B$ の運動方程式は
 
\[\begin{align*}\frac{d\boldsymbol{p}_A}{dt}
&=\boldsymbol{F}_{A\to B}+\boldsymbol{F}_{A\to C}
\tag{14}\\[6pt]
\frac{d\boldsymbol{p}_B}{dt}
&=\boldsymbol{F}_{B\to A}+\boldsymbol{F}_{B\to C}\tag{15}\end{align*}\]
となります。この $2$ 式を加えると、$\boldsymbol{F}_{A\to B}$ と $\boldsymbol{F}_{B\to A}$ の項がキャンセルして
 
\[\frac{d}{dt}(\boldsymbol{p}_A+\boldsymbol{p}_B)
=\boldsymbol{F}_{A\to C}+\boldsymbol{F}_{B\to C}\tag{16}\]
となるので、質点 $A$ と $B$ の運動量の和 $\boldsymbol{p}_A+\boldsymbol{p}_B$ は保存されません。このように、運動量保存則を成り立たたせるためには、互いに力を及ぼし合っている質点すべてを含むような系を選択する必要があります。