関数の極限値
関数 $f(x)$ について、変数 $x$ を限りなく $a$ の値に近づけるときに $f(x)$ が唯一の値 $L$ に近づくならば、$L$ を $f(x)$ の 極限値 とよび、次のような記号で表します。
\[\lim_{x\rightarrow a}f(x)=L\]
たとえば $f(x)=x^2+c$ について、$x$ を限りなく $1$ に近づけたときの $f(x)$ の極限値は $f(1)=1+c$ となります:
\[\lim_{x\rightarrow 1}(x^2+c)=1+c\]
極限値が常に存在するとは限りません。たとえば $\sin x$ は $-1$ と $1$ の間を振動する周期関数なので、$x\rightarrow +\infty$ の極限値を定めることができません。
sympy.limit()
SymPy パッケージ の sympy.limit() を使うと関数の極限値を得ることができます。
たとえば、$\displaystyle\lim_{x\rightarrow a}f(x)$ は次のように記述します。
sympy.limit(f(x), x, a)
解析学で有名な極限公式
\[\lim_{x\rightarrow 0}\frac{\sin x}{x}=1\]
を確認してみましょう。
# SYMPY_LIMIT_SINX/X
# In[1]
# sympyをインポート
import sympy
# 記号xを定義
sympy.var('x')
# y=sinx/x
y = sympy.sin(x)/x
# x→0の極限値
lim_y = sympy.limit(y, x, 0)
print(lim_y)
# y=sinx/xのグラフをプロット
p = sympy.plot(y, (x, -12, 12), ylabel="y")
# 1
微分積分学では次の極限公式もよく登場します。
\[\begin{align*}&\lim_{x\rightarrow 0}\frac{\tan x}{x}=1\\[6pt]&\lim_{x\rightarrow 0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac{1}{2}\end{align*}\]
# In[2]
# f(x)とg(x)を定義
fx = sympy.tan(x)/x
gx = (1-sympy.cos(x)) / x**2
# xを0に近づけたときのf(x)とg(x)の極限値
lim_fx = sympy.limit(fx, x, 0)
lim_gx = sympy.limit(gx, x, 0)
print([lim_fx, lim_gx])
# [1, 1/2]
$x\sin (1/x)$ は振動しながら原点に収束する関数です。
\[\lim_{x\rightarrow 0}x\sin\frac{1}{x}=0\]
# In[3]
# y=sin(1/x)
y = x * sympy.sin(1/x)
# xを0に近づけた時のsin(1/x)の極限値
lim_y = sympy.limit(y, x, 0)
print(lim_y)
# y=sin(1/x)のグラフをプロット
p = sympy.plot(y, (x, -0.1, 0.1), ylabel = "y", line_color="red")
# 0
極限値が存在しない場合
$\sin x$ は $x\rightarrow \infty$ の極限値をもちませんが、その場合でも $-1$ から $1$ の間で振動することを <-1, 1> のような記号で表示します。SymPy においては、極限値が一定範囲で振動する状況を AccumBounds() オブジェクトで表現します。
# SYMPY_LIMIT_OSCILLATE
# In[1]
import sympy
# シンボルxを定義
sympy.var('x')
# 無限大のシンボルを定義
oo = sympy.oo
# f(x)=sinx
fx = sympy.sin(x)
# xを0に近づけた時のsinxの極限値
lim_fx = sympy.limit(fx, x, oo)
# 極限値は定まらず-1から1の間を振動するのでAccumBoundsオブジェクトが返る
print(lim_fx)
# AccumBounds(-1, 1)
右側極限と左側極限
解析学では関数 $f(x)$ がある値 $a$ に $x$ 軸の正の方向から近づくときの極限値を右側極限、負の方向から近づくときの極限値を左側極限とよび、それぞれ $\displaystyle\lim_{x\rightarrow a+0}f(x)$, $\displaystyle\lim_{x\rightarrow a-0}f(x)$ と表します。たとえば $\tan x$ は右側から $\pi/2$ に近づくと $-\infty$ 、左側から $\pi/2$ に近づくと $\infty$ という極限値をとります。sympy.limit() の第 4 引数に '+' を渡すと右側極限を、'-' を渡すと左側極限を返します。
# SYMPY_LIMIT_RIGHT_LEFT
# In[1]
import sympy
# 記号xを定義
sympy.var('x')
# 無限大の定義
oo = sympy.oo
# 円周率の定義
pi = sympy.pi
# f(x)=tan(x)
fx = sympy.tan(x)
# tanxの右側極限
lim_fx_right = sympy.limit(fx, x, pi/2, '+')
# tanxの左側極限
lim_fx_left = sympy.limit(fx, x, pi/2, '-')
print("右側極限 {}".format(lim_fx_right))
print("左側極限 {}".format(lim_fx_left))
# 右側極限 -oo
# 左側極限 oo
下記は誤植と思われますので、ご確認ください。
LIMIT_01 In[1] プログラムで、lim_y = sympy.limit(fx, x, 0) → lim_y = sympy.limit(y, x, 0)
sympy.plot の xlabel と ylabel の位置が、以前は xlabel は x軸の右端、ylabel は y軸の上端でしたが、最近の Google Colab では x軸、y軸のそれぞれ中央に変更されたようです。 今回のようなプラス、マイナスの両方向に均等に座標が伸びているグラフでは、座標軸とラベルが重なってしまいます。xlable や ylabel の位置を指定する方法などはありましたでしょうか?
LIMIT_02 In[1] プログラムの実行結果は、AccumBounds(-1, 1)となり、print文を使わずに、コードの末尾に sympy.limit(fx, s, oo)を置いて実行すると、⟨−1,1⟩が表示されました。
Jupyter Notebook でも同様の現象が確認されました。
SymPy のバージョンアップが原因かもしれないと思ってダウングレードも試してみましたが、改善されませんでした。Google Colab と Jupyter Notebook はどちらも IPython カーネルを利用するので、IPython に設計変更がなされた可能性があります。今、色々と試行錯誤していますが、今のところ解決策は見つかっていません。申し訳ないです。
LIMIT_02 In[1] のプログラムの動作を再確認しました。AccumBounds は有限区間を表すためのクラスです。AccumBounds(-1, 1) は -1 から 1 のいずれかの範囲をとるという意味です。
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import sympy
#区間[0,1]オブジェクトを生成
interval = sympy.AccumBounds(-1, 1)
print(interval)
# AccumBounds(-1,1)
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SymPy のバージョンアップに伴って、極限値が定まらず、かつその範囲が有限である場合に、AccumBounds() オブジェクトを返すようになったのだと思います。